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会長の独り言

会長の独り言

一番大切なもの

リチャードとジェニファーは、結婚して3年目を迎える夫婦です。


夫のリチャードは証券会社に勤めています。
少し気が短いところもありますが、仕事のできるビジネスマンです。


趣味は車です。
車に乗ることはもちろん、車の整備をしたり、車を洗うことも大好きという、大の車好きなのです。



一方、妻のジェニファーは、保険の会社で事務をしています。
やさしくて温和な人柄で、周囲からも信頼されています。


趣味は料理とテニスです。



さて、リチャードには長年の夢がありました。


それはスポーツカーを手に入れることです。
特に、ポルシェにあこがれていました。


しかし予算が足りなくて、スポーツカーには手が出ず、
これまでずっとセダンタイプの車に乗ってきたのです。


ところが、これまで乗ってきた車が乗り換えどきになったので、
ついにリチャードはスポーツカーを、それもポルシェを買う決心をしました。


予算は大幅にオーバーしていましたが、長期ローンを組み、
そして、あこがれのポルシェを新車でオーダーしたのです。


思い切った決断をしないと、とても買えない金額でした。


車をメインで使うのはリチャードです。


ジェニファーはというと、
運転免許を取ってまだ2ヵ月の初心者ドライバーでしたが、
たまに買い物に行くときに車を使います。


ジェニファーは、自分がスポーツタイプの車をうまく運転できるか不安でした。

一方、リチャードは、納車までの毎日が待ちきれませんでした。


  納車は約2週間後の日曜日でした。



そして、いよいよ納車の前日になりました。
しかし、会社から帰ってきたリチャードは、不機嫌な顔をしていたのです。


ジェニファーは聞きました。

「何かあったの?」


「まったく、ふざけてる!急遽、明日から5日間の出張が決まったんだ。」
と、リチャード。


「まあ!では、愛車との対面は、おあずけなの?」


「いや、出張は午後からなんだ。
 ディーラーには、午前中に納車するように電話しておいた。
 だから、対面はできるけど、運転するのは、おあずけだな。」



翌日、新車のポルシェが納車されました。


リチャードは、いろいろと点検し終えると、キーをジェニファーに渡して言いました。


「では、キーをあずけておくよ。
 慣れないうちは運転しにくいかもしれないけど、慣れてきたら快適になるさ。
 それから、この封筒には自動車保険などの書類が入っている。
 もし何かあったら、保険会社に連絡すること。
 封筒はサイドシートの前のボックスに入れておくから。」



こうしてリチャードは、後ろ髪を引かれながら出張に出かけました。



その日の午後、ジェニファーは買い物に行く用事がありました。
いつもだったら車で行くのですが、その日は、ためらいました。


リチャードの夢だったポルシェの新車。

そのポルシェを、慣れない自分が運転して、もし傷でもつけるようなことがあったら大変です。
リチャードに、なんて謝っていいのかわかりません。


しかし一方、好奇心もありました。

「リチャードがあこがれていたポルシェって、どんな車なんだろう?」

運転して乗り心地を味わってみたいという思いもあったのです。


結局ジェニファーは、ポルシェで買い物に行くことにしました。



そして運転をしていて、発進するときの加速の素晴らしさに気づきました。

「これがスポーツカーの醍醐味なのね。たしかに気持ちいいわ。」



信号待ちの時に、ハンドル周りにいくつかの見慣れないスイッチがあるのに気づきました。

「これは何のスイッチかしら?」


スイッチを見ていたら、不意に後ろの車がクラクションを鳴らしました。

信号が青に変わって、前の車がすでに発進していたのです。

ジェニファーは、あわててアクセルを踏みました。


ポルシェは、スムーズに加速を始めました。


ジェニファーは、クラクションを鳴らした後ろの車が、
バックミラーの中でどんどん小さくなっていくのを見ました。

「ほんとうにすごいスピードだわ」


そして、ジェニファーが再び前を見たとき、
前の車が障害物を発見してブレーキをかけたところでした。
ジェニファーもあわてて急ブレーキをかけましたが、
勢いよく加速したポルシェは、すぐには止まりませんでした。


ジェニファーの車は、前の車に軽く衝突してしまいました。


幸いジェニファーにケガはありませんでした。


しかし、ジェニファーが外に出て見てみると、
ポルシェの前のバンパーには大きな傷が入っていました。


ジェニファーは、ちょっとしたパニック状態になりました。


「どうしよう!どうしたらいいの?
 リチャードの大切な車に傷をつけてしまったわ。
 きっとリチャードは怒るに違いないわ。なんて謝ったらいいの?」



前の車のドライバーが言いました。

「警察と保険屋に連絡しましょう。」



ジェニファーは、
サイドシートの前のボックスに、
保険関係の書類が入った封筒があることを思い出しました。


そして、封筒から書類を取り出すときに、
書類の一番上にリチャードが走り書きしたレターがあるのに気づきました。



そのレターには、こう書いてあったのです。



「愛するジェニファーへ

 この封筒を開けているということは、何かあったんだね。



 まず、一つだけ伝えておきたい。

 僕にとって大切なのは、

 ポルシェではなく、君だということを。」



次は、修行僧の教え




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